【量子力学メモ】光は粒子?

1. 原子核と電子

原子は正の電荷をもつ陽子、電荷をもたない中性子が集まってできている原子核と、その周りを回る電子(負の電荷)によって構成されます。ここで、一つの疑問が生じるかもしれません。「なぜ、正の電荷と負の電荷で引き合わないのか」と。

1.1 クーロン力

確かに、電磁気学の視点で見てみれば、正の電荷と負の電荷の間には引き合う力「引力」が発生します。これは「クーロン力」と言われる力であり、2つの電荷の間に力が働くことを意味します。この力は符号が異なれば「引力」、同符号ならば反発し合う力「斥力」が働きます。

このとき、電子は球体(粒)と仮定しておくと、電荷同士で作用する力は「球体の表面のある1点」から発生するので、球の表面積(単位面積) 4 \pi r^{2} 当たりの電荷  q となります。この電荷は2つ存在すれば影響を及ぼし合うので、一般に

{\displaystyle 
F = \frac{q_{1} q_{2}}{4 \pi \epsilon_{0} r^{2}} 
}

と表されます。 \epsilon_{0} は真空中の誘電率(媒質における分極の影響度)です。

このクーロン力によって引き合う力が発生していることは確かです。しかし、なぜ電子は原子核に衝突しないのでしょうか。

1.2 遠心力

電子が原子核に衝突しないのは「遠心力」が働いているからです。原子核のまわりを「回っている」ので、外向きの力が発生します。「買い物袋なんかを振り回すと外側に持っていかれる」のをイメージすると分かりやすいかもしれません。

ここで、ある点を中心とした回転運動する物を考えます。物は買い物袋でも、水をいれたバケツでも、イメージできればなんでもいいです。遠心力は回す速度(角速度)  \omega が大きいときや、質量 m が大きいときに大きくなるので、力は速度と質量の積になりますね。さらに、回す半径が小さくなるほど1週分の距離が短くなるので速度が増加します。つまり半径は反比例の関係にあるので、

{\displaystyle 
F = \frac{m v^{2}}{r}
}

となります。運動方程式 F = ma の式と同じです。

1.3 古典力学の限界

さて、電子と原子核は「付かず離れず」の関係になっていなければならないので、クーロン力 = 遠心力 の関係を作ります。その前に、クーロン力電荷を同じ電荷  q^{2}としておくと、

{\displaystyle 
\frac{m v^{2}}{r} = \frac{q^{2}}{4 \pi \epsilon_{0} r^{2}} 
}

となります。この式の右辺はクーロン力、すなわち電子の「ポテンシャルエネルギー  U」です。クーロン力と遠心力が同じなので、ポテンシャルエネルギーと運動エネルギー Kを用いれば、電子のエネルギー  E E = K + U で求められるはずです。ちなみに運動エネルギ―は

{\displaystyle 
K = \frac{1}{2} m v^{2}
}

なので、原子核に向かうクーロン力を負、離れようとする運動エネルギーを正とし、遠心力を移行して代入すれば

{\displaystyle 
E = \frac{1}{2} m v^{2} + \left( - \frac{q^{2}}{4 \pi \epsilon_{0} r^{2}} - \frac{m v^{2}}{r} \right)
}

{\displaystyle 
= -\frac{q^{2}}{8 \pi \epsilon_{0} r}    
}

となります。これで、無事にエネルギーを求められました!

本当に...?

エネルギーが負になってますけど...これって原子核と衝突するのでは...

ということで、古典力学だけでは正しい計算ができません。

2. 光

昔の鍛冶職人はこう言いました。

「金属って加熱すると色が変わるから不思議なもんだな」と。

当時の技術では高温を測定するための機器がなく、色で判断していました。そこで、ある学者さんがこんなことを言いました。

「発光色を分解できれば、具体的な温度がわかるかもしれない」と。

そして分光器なるものを完成させて光の強度で温度を測れるようになりました。この分光器で計測したものは、横軸に波長、縦軸に光の強さでグラフを描くとスペクトルが得られます。 ここで、光の強さと色には関係があることが分かってきます。つまり、色を決めているのは波であり、光の強さも波によって変化するのかもしれないとされていました。

2.1 光の強さ

波長の変化は振動数  \nu によって決まっており、光が1秒間に進む間に含まれる波(振動)の数

{\displaystyle 
\nu = \frac{光の速さ}{波長} = \frac{c}{\lambda} 
}

で求めることができます。ここで、プランクという人がエネルギーと振動数との間に比例関係があることを調べ、比例定数を算出しました。これを「プランク定数」といい、 h = 6.626 \times 10^{34} [Js] と表します。

光のエネルギーは振動数が大きい(=波長が短い)ほど大きくなることから、エネルギーが大きいほど紫色に近く、エネルギーが小さいほど赤い色に近くなります。しかも、エネルギーは比例関係から、 h \nu より小さい値を持たないことが分かります。

つまり、光のエネルギーは飛び飛びであり、 nを整数とすれば

{\displaystyle 
E = n h \nu
}

となります。

2.2 光電効果

光は電子の遷移によって生じます。鍛冶職人が鉄を加工する際に加熱すると、金属表面の電子は励起状態となり、その電子が基底状態に戻る(遷移する)ことで光を発生させます。この性質を用いて、光が飛び飛びならば、その光の強さを決めているのは「電子の個数」であるということに注目します。

しかしながら、ここで1つの疑問が生じます。光は振動数、つまり「波」によって決定するものだとされていましたが、この説では電子の個数、つまり「粒子」によって決定するものとなります。つまり、この時点で、光は「波」と「粒子」の2つの性質を持っていることになります。

ここで、粒子であることを裏付けられるような実験を行います。これが「光電効果」です。金属に光を当てて電子がいくつ飛び出すかを計測する実験で、つぎの2つが分かりました。

(1) 波長の短い光を当てると電子のエネルギーが大きく、飛び出してくる電子の運動エネルギーは、

{\displaystyle 
E = \frac{1}{2} m v^{2}
}

となります。ここで、 m は電子の質量、 v は電子の速度です。

(2) 光を強くすると飛び出す電子の数は増えたが、電子1つ1つのもつエネルギーは変わらない

これらの結果から、プランクの式の説明ができます。つまり、
(1)より、振動数 \nu を変化させるとエネルギー  E が変化する
(2)より、光の強さ  n を変化させれば  n個分のエネルギーになる
ということが分かります。

まとめると、光のもととなる強さ(光子1個)が電子1個に与えるエネルギーは波長によって決まり、光子1個は電子1個にのみ作用する。よって、光の正体は光子(粒子)です。しかし、この時点では粒子であることを裏付けるには足りず、あくまで仮説とされ、アインシュタインが提唱したことからアインシュタインの量子仮説といいます。

2.3 コンプトン効果

光は粒子であるならば、運動量も求まるはずです。つまり、運動量は質量と速度の積  p = m \times v になります。これをコンプトンという人が実験して確かめました。内容としては、光子を電子に衝突させて、散乱(光子と電子が衝突して飛んでいく)するかを見ます。

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結果としてエネルギー保存則と運動量保存則が成立することが分かり、

{\displaystyle 
光子のエネルギー : E = h \nu  光子の運動量 : p = \frac{h}{\lambda}   
}

となります。(導出は省略します。)これで光子は粒子であることが認められ、粒子の1つとして扱われることになります。

しかし、粒子のままでは終わらないのが量子力学の面白いところ...